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常夜
・眠らない23時の街を歩く人々は、昼間の彼らとはどこか違う。

まるで人間の格好をした彼らの霊魂を見ているかのようだ。
彼らには、健全なる肉体に健全なる精神が宿ったりする事はあるのだろうか。
どうも想像する事ができない。

休日の昼、大都会のスクランブルは人で溢れかえる。
そんなときふと思うのだ。この人だかりをなす存在たち、
交差点に複雑な紋様を編んで思い思いの方向へ進む一人ひとりは、
果たして全員が自分と同じ人間なんだろうか、と。
見た目が人間であるだけで、実は他の誰かに遠隔操作されているだけのアンドロイドや、
仮初めの肉体を得たこの世ならぬものも、ここにはいるのではないか。
他人に関心を微塵も払わないこの街を苗床にして。

深夜の街には人が殆ど居ないが、そんな思いを抱いてしまうのは、
重く垂れ込めた闇夜の帳の所為だろうか。
それとも、行き交う人がみなどこか、地上に居場所を無くし始めているような、
ここからは見えない世界をしっかと見つめているような、目をしている所為だろうか。



中年のカップル。辺りを見回しながら車道に大きくはみ出して進む二人はもちろんいくばくかのアルコオルを摂取しているのだろう。
オレンジの光だけが支配する大通りを、車は摩擦の全くない氷を斬るスケートの刃のように淀みなく滑っていく。
タクシーはブレーキはおろかハンドルを切る素振りすら見せない。
街灯が舐めていくウィンドシールドの向こうの運転席には誰も座っていないみたいだ。そうであっても何の不思議もない。
なにやら禍々しいほど強い力に引かれてどこまでも一直線に進む車を見送る事に業を煮やした女性は、しまいには猛スピードで幹線道路を下るゴミ収集車に手を挙げ、連れの男性に「あんなスピードで走っていたんじゃ、止まってくれないよ。」と窘められていた。

猛スピードだろうが低スピードだろうが、ゴミ収集車が止まるのはゴミ置き場以外に無い、スピードの問題じゃないだろうという馬鹿正直な横槍も、普段は密林の水辺に棲む動物のように路肩をそろそろと進む車が自分の隠れた本能を蘇らせ、法定速度の倍ほどの速さでオレンジの草原を駆け抜ける姿を見せられると、魔法をかけられたみたいに硬さも鋭さも失ってしまうのだった。



人間は夜を明るくするべきではなかったのだ。
長い歴史の間、闇夜に溶けるようにして身を潜めていたもの、太陽の下では決して露わに出来ないものが、今や見目形を曝け出し、跋扈することで夜の静けさの端を引き裂いている。
サロンの一室で密やかに繰り広げられる夜毎のグロテスクな宴を、両開きの扉を開けて見てしまった時のような、後ろめたさと嫌悪感と好奇心の混交に、夜の街では何度も出逢う。

朝、宴は全て片付けられ、騒擾は空間の何処にも見出せず、そこにはただ陽光の中での生活を、昼間の姿の演技を始める人々の作る、物憂い揺らぎがあるだけだった。
夜の敷布はどこまでも裂けていくことはなく、きっと端の綻びがそれ以上進まないように編まれているのだろう。
オレンジの街燈に照らされた夜は、水を湛えた陶器の甕に僅かに入った罅にすぎないのかもしれない。水は漏れることがない。
これまで通り、人は光の下で自己を演じ、闇の中で本能に遊ぶ。
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・嵐の前には風が来る。

郊外の商店街には高層ビルと呼べる代物は一つとしてなく、
開けた空には風にたなびく雲が、挽きたてのコーヒーに落としたミルクのように忙しく渦巻いていた。

商店街を通り、そろそろ乱雑な軒並みに感じる情緒に食傷が勝る頃、美容院に辿り着いた。

広く見せるように計算された内装がガラス張りの壁越しに見える。
その洗練された佇まいは、雨よけのネットや幌を延べた軒先に商品を盛り上げた周囲のあらゆる店とコントラストを成している。

今年に入ってからこの美容院に通い始めた。
シャンプーはいつもいい香りがするし、常軌を逸した髪型にもされないのである程度美容師に任せても安心できるし、何より気取っていないので中に入りやすい。


今日、今後のわが身の振り方が決まった。
最低でもこの先2年は今日敷かれた道路の上を、多少交通ルールは逸脱するにせよ、そろそろと進んでゆくだろう。
あと半年で、僕はこの街を出てゆく。
別の街に住めば、わざわざこの長く続く商店街を歩くような事はしなくなるかもしれない。
ここに通うのもあと2回、多くて3回か。


その人の良さそうな金髪の美容師は、シャンプー後の重く濡れそぼった髪を摘まんで持ち上げながら言った。マスカットの香りと水飛沫が辺りに煌く。
「じゃあ、ソフトモヒカンっぽくしましょう。」

どんな方程式を解いたらその解は導けるのか、門外漢の自分には皆目見当もつかなかったが、余計な口を挟むのも無粋だと思ったので仕上がりを待つ事にした。



日本語の長所は、どこまでもニュアンスを曖昧に出来る点にあると思う。
水彩絵の具の色の乾かぬうちに、水を含んだ絵筆で淡く、淡く滲ませるように。
「ソフトモヒカンっぽい」髪型には最早モヒカンの片鱗すら見出せず、
「頭頂部の髪の長さが、その横よりも若干長いような気がする」頭が鏡に映るばかりだ。


切りくずを落とす為にまたシャンプーをした。本日2回目のシャンプーだ。
いや、美容院に来る前に身だしなみとして髪を洗ったから3回目か。
泡が目に入らぬように目を瞑ると、シャワーの雑音で現実は引き剥がされる。
眠るときよりはっきりと、眠るときより暗く。
人は生まれる前、こんな音と風景に囲まれているのではないだろうか。
いつともなく始まり、突如として終わるシャワー。始まる光と終わる闇。自由と放縦は已み、人生というあらゆる束縛と未来が揺れる触手で赤子を絡めとろうとする。


ガラスの扉の向こうの街には、今にも雨が降りそうだった。
街は不安げで、雨が落ちるのを今か今かと待っているようだった。
産まれるのを待ち、変わる事を待ち、
そしていつか死ぬ事を、人も心のどこかで待ち続けている。
・北枕で寝ている。


北枕の戒律には昔から厳格な方で、外で寝る前には方位磁針を覗く事が儀式の様になっていた時もある。

幼いあの日、北向きに寝かされていた、顔も体も覆われた物云わぬ人。北に枕を向ける度にピクリともしない蒲団の盛り上がりを鮮やかに浮かべる。

けれど今は昔より気にしなくなり、部屋の構造上、北枕にすると何かと便利である事に気づいたので、水が高きから低きへと流れていくように易きへ流れ、迷信から目を背ける事になったのだ。



ドアを開けるとベッドがある。内側に開くドアが当たるか当たらないかの狭間にベッドを置いたのは、年初めの模様替えの折の事、
今年はさぞ切り倒されたまま永きに亘り風雨に晒された倒木の様な擦切れた肉と霊とで、
毎夜毎夜このドアを開けるだろうという予感がしたからだ。

実際丸太のように疲れ果てる事はあれ、ドアを開けてそのままベッドに倒れ込む事はない。
しかしドアを開けてまず主人を迎えるのが、最も奥に安置されるべき寝床であるという配置に趣を感じたのでそのままにしている。



今までは足をドアに向けて寝ていた。
南を向いた窓に頭を向け、朝は開け放したカーテンの間から注がれる曙光に濡れる。
(濡れているのはただの寝汗です)

北枕を受け入れるという事は、足を窓に向け、ドアに頭を向ける事。
ドアの振れ幅ぎりぎりのベッド、その端に延べた枕に頭を委ねて眠る。
もしも誰かがドアを開けたら、伸ばした手の先には頭が触れる。

開けるのが、巨大な斧をかざした異形の者だったら。
(武威みたいなやつ)

ガチャ、ブンッ!・・・・・・ゴロゴロゴロ

となるかもしれないと思いつつ、
熱と眠りとには勝てずに今日もドアを少し開けて北枕。
・腕のスナップを存分に利かせて、改札口にスイカを当てている人を見た。

あれは卓球のフォアハンドだ。
鋭いストローク、ヒットした後も気を抜くことなく振り切るフォームは完璧だ。

その美しさに、改札もピンポンという音で祝福した。



・「海がしょっぱい理由」で検索してここに辿り着いた人が居たらしい。

問題は解決しましたか?



・海がしょっぱいのは、地球がひっそり泣いているからだよ・・・
・今さらかもしれませんが、筋肉少女帯にはまりました。


ちなみにプライベートの事を言うと、今は修羅場、血の海である。
俺、この戦争が終わったら結婚するんだ・・・


ああ、時間がないときに限ってこの手のアンテナの感度が増幅してしまうのはなぜ。
ここで筋少に逢ったのは運命かもしれない。
そして、(本当の意味で)リアルの彼ら、熱狂を感じるには幼すぎた
(筋少聴いてる園児はちょっと将来に不安を感じる存在)事に寂しさを感じている。



・いい声を持ちたい。
無理なら噛まない口でもいい。
要はトークのための力が欲しいのだ。
ああ、もっと!この俺に力があれば!

この力を鍛えるにはどうすればいいのだろう。
トークをし続けないと死んでしまうような環境にわが身をおけばいいのかもしれない。
水泳でいうと、息継ぎがヘタな橡はクロール中に水を飲んではよく水中で噎せたものだ。
(水中で噎せると更なる水が入ってピンチが加速します)
よって息継ぎは水泳にとって不可欠な技法であるといえよう。
生きるためにトークが必要な場所・・・

だめだ。いかがわしさしか浮かんでこない。
そんな気魄は無いから、今日も引き篭もっていよう。
誰とも話さなくても生きてゆけるこの美しい国で。

トークは文字でいいです。
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