・家庭教師先での事、計算があまりに面倒で発疹が出来そうだったので、
健康のためにペンを投げて部屋をぼんやり見回すと、
机の傍らに原稿用紙が置かれているのに気が付いた。
よく見るとどうやら反省文のようだ。
当然ながらニヤニヤしながら読むのだが、
あまりしげしげと見るのも憚られるので、
あくまで関心は生徒の君にあるのだよ、問題解いてないけど、
という視線を背中に一心に送りつつ、ちらちらと桝目に並んだ文字を追う。
嗚呼忙しい。
真っ先に目に飛び込んできたのは「忖度」という言葉である。
中学生の反省文なのに。おまえは中島敦
*か。
文もなかなか達者である。実物をお見せできないのが残念だ。
反省文をニヤニヤしながら読んだのは、
橡も彼と同じ年の時に反省文を書いた事をちょうど思い出したからである。
しかし内容はとても幼稚で、目の前の文章とは宝石と果汁グミ位の違いだ。
「ごめんなさい、もうしません、3年3組 橡」みたいな内容だったか。
自分の反省文を思い出して気づいた。
反省文というのは、だいたいがどうでもいい事で書かされるものなのだ。
と思って彼のを見ると、案の定授業中に手紙を回したとか煩かったとか、
話のネタにするべく運命付けられた内容だった。
なのでここでネタにしている。
反省文にとっては大願成就だろうが、彼には迷惑かもしれない。
彼が見ませんように。
「悪の華」で有名な詩人、ボードレールは中学校を退学させられたが、
その理由は授業中に回ってきた友人からの手紙を教師に渡さなかった為らしい。
つくづく日本は平和な国だと思う。
教育ってすぱらしいですね。
反省文ごときで難しい言い回しを披露するのは勝手だけど、そこは足し算だよ。
*中島敦
書く文章がやたら難しい、と橡が思ってる人。
ほかに居るかもしれないがあんまり知らない。
代表作は「李陵」「山月記」など。
PR