・最近考える事といえば、専ら「本棚のスペースをいかにして空けるか」に尽きる。
その事しか考えていない。まるで本棚整理ロボットだ。
部屋という空間は、それだけで一つの孤立系をなす。
本棚から本が消えるという事は、どこか他の空間に本が出現するという事だ。
自分が一つ幸せになったり、何かを得たりする度、
その裏で他の誰かに一つの傷がつくように。
不思議なものだ。
こうして無造作に積み上げ、荷造り用の紐で一纏めにすれば、
それだけで唯のパルプの塊、本来の姿を取り戻すのに、
これでも昔はそれが人類の叡智の一端や、
美しく悲しく不条理で手に汗握る物語を繰り広げていたような気がしていた。
ネオンが零れる街で、情報を買う。
親指の爪ほどの大きさのそれには、幾千幾億の頁の文字を刻めるだろう。
先史以来、人間の歴史の悠久、その全てを、
このプラスチックの欠片は打ち明ける事が出来るかもしれない。
手に乗せても何も感じない、まるで羽根の様な歴史だ。
そよ風にすら震わされてしまうような黒羽。
クロゼットに本を埋めた。
横たえた本は心なしか重く感じられた。
自身を支える力を無くして、生きる力を無くした死体の重みがある。
時間は進むことを止め、逃げ場をなくし、亡骸を覆い、
クロゼットはそんな気味の悪い質量で溢れ、その扉で目を塞ぎ、
本棚には今日も本が通り過ぎる。どこか外から、クロゼットの闇箱へ。
部屋は重くなる。部屋は死んでゆく。
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