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「 塩のような日々 」
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・あまりにもの分かりが良すぎるというのも、時には考え物である。


つけ麺屋に入った。
麺の量を増やしても値段が変わらない、甘美なシステムが日本を覆いはじめているような印象を最近受ける。実にうれしい。
お陰で今や、大盛りの量がスタンダードだと勝手に認識してしまい、並盛が運ばれてきたときにはそのしとやかな佇まいに、これがわびさびというものなのか、と失われつつある和の心を勘違い甚だしくも見出したりしている。


注文を待っていると、席1つ向こうで男女が何やら話しているのが聞こえてきた。
男は片言の日本語を巧みに操り、こちらに背を向けて女に自分の考え、まあ主に恋愛観なのだが、を話していた。
決して静かで無い店内で、隣でもなく反対側を向いたその声が聞こえてきたのは、彼らの会話が弾んでいたからであり、その会話を月世界の鞠のごとく弾ませていたのは、傍らの女の打つ相槌だった。


「あーそうそう!うんうん!わかるよ~」
「だよね~わかるわかる!」

(repeated ×2 くらい)


男!弾幕薄いよ、何やってんの!
男と自分の間の空席に人が座った。集中しろ。今ならカウンターの隅に爪楊枝が落ちても分かる。
もしここに土俵があったら、両足であの周りの綱を踏んでいるであろう男は相変わらず遠距離恋愛についてなんて語ってしまっている。
こういう話題は、一旦話しだすと止まらないものである。だが心配することはない。こっちは大盛りの更に上を行く「特盛り」なのだ。(100円増し)


観察結果から導かれる数々の可能性について考察したり、麺の柔らかさに一抹の不満を感じたりしながら、いよいよ長い一本道も佳境に差し掛かる頃。

「2年前だったら、付き合ってたかもしれないね~」


!!
すいません、割りスープください。


もの凄く良く響く声で店員を呼んでしまった。こんな声を自分の声帯が奏でた事に驚き、思わず立ち上がった事への羞恥も消し飛ぶ程だった。

しかし、その後会話は本当に日常の、他愛もない方向へ流転していった。
この醤油味のスープのしょっぱさが、閉ざされた空間とちっぽけな自分の心の全てを鮮やかに描いているような気がして、しょっぱかったら言ってくださいねと言った店員に再び声をかける事なんて出来るはずもなく、薄いサテンの端が床に触れるほどの音も立てずに店を出た。
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