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「 ふわりと布騒ぐ 」
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・もう洗濯物が無くなっても判らない、気づかない。やばいな

 Date: 2006年04月11日 22:53

・風の強い日だった。

でも、とても晴れていたから、いつものように洗濯物を干した。

夜帰ってくると、疲れが一気に放出されるのか崩れ落ちるように眠ってしまう。
その日もそうだった。いつものことだから洗濯物は明朝取り込むことにして。

朝、開けると洗濯物は消えていた。
物干しロープの上は綺麗に片付いていて、突っ張り棒にハンガーで吊るしたワイシャツが視界を横切っては戻っていくばかりだった。

風で飛ばされたんだろうか。でもそれなら、ピンチで留めた洗濯物の前にハンガーが攫われていくはずだ。取り込んだのかもしれない。記憶は全くないけど。ピンチを数えてみよう。いや、最初の数を覚えていないから減ったかどうか解らないじゃあないか。

念のためベランダから身を乗り出して辺りを見回してみたがそれらしいものは何も見つからなかった。

これは数日前の出来事だ。自分の衣服の中で足りないものを調べれば済む・・・と思った。しかし実際、自分の服のストックなんてなかなかどうして把握していないものである。時間は流れ、取り込んだのかどうかは完全に解らなくなった。

服が無くなった、というはっきりした証拠は無い。でも何故だか、クローゼットを開けても何か足りない気が無性にする。どのシャツ、ではなくて、それはきっと名指し出来ないものだ。

人間の記憶、思い出、憧憬、そんなものだって朝カーテンを開けたらぽっかり消えているかもしれない。どんなに大切で、慈しんだものであろうとも。そして、無くしたかどうかも確信出来ぬまま、時間が過ぎる。次の洗濯。次の晴れた日。言い様の無い喪失感を残して。
記憶は綿や麻のように、肌を滑る確かな感覚はあるだろうか。思い出にはクローゼットがあるだろうか。現実はどうあれ、洗濯物は失われた。

風の強い日だった。よく晴れた空が、少しだけ恨めしかった。
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