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「 アクロフオビヤ 」
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・この前、自分の学部の建物の屋上に登ったら久々に足が竦んだ。柵とか無いんだもん。


Date: 2006年05月19日 01:16

・足が竦む。
動くこともできない。上がること、下がること。

地上8階。戦争の大空襲でもただ一つ焼け残ったらしいそのデパートが、一番高い建物。
その街で、僕は高所恐怖症だった。

マンションのヴェランダから外を眺める。地面がそこまで迫ってくるような気がする。小さな手は汗に濡れる。手すりを手が滑って、体がすっと軽くなり堕ちる事しか、もう考えられなくなる。
ヴェランダに上がらずとも、邪な力で堕ちる所まで滑らされること、そのバルコニーが崩れることばかり考えていた。

梯子。木。ジャングルジム。
高いところまで上がる。目がくらみ、上がる事も下がる事も出来なくなる場所まで。
手を離せば膠着状態から抜け出せる。こんな思いはもうしなくて済む。
どうしてこの手は張り付いているのだろう。こんなに汗で湿っているのに。動けない。地面が迫る。ふわり。何も無い。重力。そのまま堕ちる。堕ちたらどうなる?


高低差を感じた軽い眩暈は、いつしか消えた。山にも登ったし東京タワーにも登った。高いところが、どうして恐怖の対象になろう。ごそっと抜け落ちるようにして、それでいて気付かぬうちに、姿を消したacrophobia
突然重力がなくなる、そんな寂しい気持ちを、どこかで忘れただけなのかもしれない。
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